川田龍平さんの生き方

エイズ訴訟:和解10年、被害の深刻さ浮き彫り 原告調査-事件:MSN毎日インタラクティブ

病院に行って、治療のために輸血された血液製剤によってエイズに感染して、合併症や差別に苦しむ原告の人たちは650人以上にのぼる。彼らの平均年齢は38歳だ。一般的には、家庭を持ち、働き盛りの年代である。安全管理をしきれなかった医薬品メーカーの落ち度によって、被害にあった人たちは、健康である権利を一生奪われた。残念なことだけれど、その後の国や企業の対応、倫理、エイズへの理解、彼らへの社会的サポートは、満足のいくものとは程遠いようだ。(参考:あるブログによれば、94年報告で1771名がHIVに感染、うち418人がエイズ発症とのこと)

発表された調査結果によると、エイズウィルスの混入した血液製剤でエイズ感染した人たちのうち、40%近くもの人が死を願望することがあると答えている。薬害の犠牲になっていること、様々な病状による身体的な痛み、社会差別(社会全体だけでなく、かつての友人、親族などから今までとは違った扱いを受けることも含む)、社会的孤立など、いくつもの苦しみを同時に引き受けなくてはならない状況の中で、前向きに生きることは簡単なことではない。

アメリカで、薬害エイズではないが、エイズに感染した患者の心理ストレスを、社会的サポートがある場合とない場合を比較した調査では、社会的サポートのあるグループのほうが、心理ストレスが軽減され発病後の寿命も長いという結果が出ている。端的に言えば、社会的に孤立してしまうことは、心理的・身体的状態の悪化に拍車をかけてしまうのである。友人や家族との何気ない会話は、苦しみから意識をそらすのに効果的だ。日本で薬害エイズと闘っている人たちへの社会的サポートはどの程度整っているのだろうか?

薬害エイズ事件についての報道は時間の経過と共に少なくなっているけれど、きっと川田龍平さんの10年を超えるメディアや社会への訴えがなければ、すでにこの件が報道されることもなくなっていたかもしれない。もし彼の活動がなければ、ここで私が薬害エイズについて考える機会もなかっただろう。彼自身もいつまで生きられるか分からないけれど、全力で少しでも多くの人がこの問題に目をむけ、理解を深めてくれることを願って活動しているという。彼の存在は、多くの薬害エイズと共に生きる人を勇気づけていることだろう。

多くの人が、この事件を自分のこととは関係ないことと考えてしまいがちだけれど、企業や病院を管理する人たち、そこに勤務する人たちの安全意識、倫理がおろそかになればなるほど、また同じ過ちが繰り返され、もしかしたら次は自分・家族・友人が被害に合うかもしれないのである。川田さんが訴えていることは、けして薬害エイズのことだけでなく、今の日本のいろんな社会問題に当てはめて考えられることだと思う。

医療だけでなく、自動車メーカー、食品メーカー、輸送サービスなど、人の生命や健康を左右する業界の倫理向上は、残念なことに誰かが犠牲になるまでは無視されがちだ。おまけに産業界と癒着している国(政府)はほとんど当てにならない。企業によって誰かの命が犠牲になっても、誰かが辞職すればそれで終わり。きちんと原因追求とその結果公表もせずに、なあなあなまま、企業の運営を続けられる現状。その倫理観のなさも、被害者が嘆くだけで、多くの人は気にも留めない。社会的責任を無視した企業の株価だって一時は下がるけれども、また事件が忘れられるにつれ株価は回復する。なぜなら、そんな企業にも利益が得られるからというだけで大勢が投資するからだ。

そんな状況でも、医療機関、メーカー、企業などの落ち度によって被害にあった方々やその家族が、けっしてあきらめず、粘り強く、問題について調べて、社会に訴え続けることは、今の状況を変えていくのに絶対に必要なことだろう。問題意識を持つこと、草の根のサポート、市民の側からの不買運動など、ゆっくりでも一人でも多くの人が変わっていく原動力になっているのは、彼らの活動なのだから。

(著者は薬害エイズについて詳しくないので間違った情報が含まれていたらお知らせください)
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Commented by momoko at 2006-03-27 03:48 x
うん、なんかさ、「人の話に耳を傾ける」、「親身になる」って大切なことって習ってきたけど、そういうことってこういう社会運動のレベルでもすごく大切なことなんだよね・・・。

それにさ、市民として国民として購買者として私たちが持ってる力って本当はすごく大きいし。ただ、私たちはそれを使わずして放棄してしまいがちだから、自分たちでもその威力に気づかないでいるだけで・・・。

後、話が多少それるけど、biomedical ethicsのクラスに出はじめて、
あたしは今は安楽死賛成派になりました。前は具体的なケースも知らなかったからちゃんと意見を持ってなかったんだけど。

生きる希望をなくし、死にたいと切望する(そして、もうどうやっても死からは逃れられないし、えてしてその死に至る過程は耐え難い苦痛を伴う)人に対して、社会が「それでもあなたは生きなくてはいけない」と強要することは単なる暴力だし、非常に非倫理的(unethical)だよなぁ、と思うようになった。

オランダでは安楽死は法律化されてうまくいっているそうです。
Commented by miffyinvic at 2006-03-27 08:55
尊厳死・安楽死問題は、日本でもニュースをきっかけに大きな話題になってるね。これは、病気に苦しむ患者さんだけでなく、医師、家族の3者の考えが複雑に絡み合うから難しい問題だよね。特に患者さんが自分の意思を示せないような状態の時は。。私は安楽死に反対しないっていうスタンスかな。勉強不足だから、はっきりと言えないけど。もし毎日が苦痛で死を待つだけのベッドに寝たきりの状態で、回復の見込みがなかったら、私も死を望むかも。重要なのは、延命によって患者さんにとって何がプラスになるのか、それを患者さん本人がちゃんと理解した上で、安楽死を選択する権利を持てることなのかな。
Commented by fishmind at 2006-03-27 22:06
TBありがとうございます。イベントの感想は・・・結構微妙なのでブログには書き足さないつもりでいましたが、オファーがありましたので今後検討させていただきます。HIVに関しては、ぼちぼちと記事を増やしていく予定ですので、今後ともごひいきに。
Commented by miffyinvic at 2006-04-06 11:34
fishmindさん、大変おもしろい記事をTBしてくださって、ありがとうございました!感想はそちらのブログに書かせていただきます。
Commented by ごろんぴー at 2007-07-15 01:03 x
***川田さんの歌を作りました***

初めまして。趣味で歌を作っている者です。

「がんばれ川田龍平」

http://www.geocities.jp/onken_music6/

よかったら、聞いてみてください。
by miffyinvic | 2006-03-26 09:27 | 海外から見た日本 | Comments(5)

カナダ西海岸で5歳児と二人暮らし。


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